《風と雪がそよぐ場所 - 君が生きる理由 第八章》
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しばらく未来と話してから、昼前に俺は病室を後にした。
未来には学校に行くと言ったものの、正直そんな気分じゃない。
だからなのか、足は自然と屋上へと向っていた。
冷たく錆び付いた扉。
それをゆっくりと開けると、白いシーツと、そして透き通った青空が目の前に広がっていた。
「はぁ……」
俺は屋上の手すりにもたれかかり、遠くに見える学校をぼんやりと眺めていた。
今の時間は丁度昼休みのはずだ。
ここからは見えないけれど、教室は今頃どうでもいい話で賑わっているはずだ。
そこにはきっと竹内さんも居て、そして拓哉も居るんだろう。
今日俺が学校に行っていないことを、あの二人はどう思っているんだろうか。
竹内さんはきっと俺がここに来ていることは予想できているだろう。
だとしたら拓哉は?
もしも俺がここに来ているとあいつが想像できていたら。
それとも未来から俺のことを聞いたとしたら。
それは俺たちが話ができる切っ掛けになるんだろうか。
俺は少なからずその未来を望んでいるんだろう。
ここまで来て意地とかプライドだなんて言うつもりはないけれど、それでも俺が情けないから、こんな切っ掛けぐらいからしかまた始められないんだ。
本当に情けない。
そんな自己嫌悪に浸りながら、遠く離れた学校を見ていると、
「どうしてここに居るんだ?」
後ろから声をかけられた。
振り向くと、柿沼がそこに立っていた。
未来の前じゃなかったことと、さっきまでの自己嫌悪がまだ残っているのか、さほど柿沼に対して感じることはなかった。
「未来のお見舞いに」
だから、未来と話してるときと何も変わらない口調で答えていた。
「なるほど」
軽く頷いた後で、柿沼は白衣のポケットからタバコを取り出して、火をつけた。
口に咥えると、軽く吸い込んで煙を吐く。その仕草はどこかたどたどしくて、タバコを吸うことにあまり慣れていないように見えた。
今までの俺なら微塵も思わなかったことなのに、その姿を見ていたら無性に聞いてみたくなった。
だから聞いた。
「タバコ、吸うんだな」
「……」
柿沼は答えなかった。
その代わりに、今度は深々とタバコを吸い込み、青空に向ってそれを一気に吐き出した。
それからしばらくの沈黙があって、
「これは、せめてもの手向けみたいなもんだ」
空に向って柿沼は確かにそう言った。
「手向け?」
「あぁ、患者を助けられなかった医者が葬儀に行けるわけないからな」
「……」
「だからここに来てこうしてるって訳だ」
俺は何も言えなかった。なんでも完璧にこなしているように見えた柿沼にこんな一面があったことに何も言えなくなっていた。
柿沼の横顔をちらりと見る。空に向けられたままの視線はどこを、何を見ようとしているのだろうか。
そんなことを考えていた時、突然柿沼がその顔を崩し、
「それで、お前はどうしてここに居るんだ」
最初と同じ言葉を投げかけてきた。
「いや、だから未来のお見舞いに」
「そんなことは言われなくても分かる」
柿沼が何を言っているのか分からなかった。同じ質問をしてきたのだから同じ答えを返した。それを分かっていると言われても俺はどうしていいのか分からない。
俺はその質問の意図を聞こうと口を開いたその時、
「結城君から来るなと言われたはずだが」
「そのことですか……」
ようやく柿沼が聞いていることを理解した。
あの日のことは今でも鮮明に覚えていた。
自分が居ると未来が泣く。
拓哉が側に居るから俺は……。
叩かれた頬と、浴びせられた言葉はあの時の自分がどれほど情けないことを言っていたのか、今になって痛いほど痛感できる。
「確かに言われましたけど、それでも俺は――」
「迷惑だ」
「――っ!?」
切り捨てるような柿沼の言葉に、俺は思わず言葉を失っていた。
柿沼は吸い終えたタバコを携帯灰皿に捨てると、改めて俺に向って言葉を投げかけてきた。
「俺の言ったことがどういう意味か分かるか?」
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