《風と雪がそよぐ場所 - 君が生きる理由 第八章》

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「迷惑なんだよ、お前の行動は」

柿沼のその言い方に俺はカチンと来た。
さっきまで落ち着いていた気持ちが瞬時に沸騰していく。

「確かに最近は迷惑をかけていたかもしれないけど、これからは違う!」
「誰がその言葉を信じるんだ?」
「それは……」

何で俺はこんな奴にここまで言われなきゃいけないんだ?
俺は未来に会いたかったし、未来だって俺がきても迷惑じゃないって言ってくれた。これからも会いに来るって決めたんだ。
気がつけば俺は柿沼を睨んでいた。
その視線を受けて、柿沼は諭すように口を開いた。

「勘違いするなよ。確かにお前が会いに来てくれるだけで伊勢さんの調子は驚くほど良くなる。お前との二人で築いてきた時間が安心させるんだろう、俺や結城君にはできないことだ」

その通りだ、これだけはお前なんかにできるわけがない。

「だから考えたこともなかった」
「……」
「お前があんなに危険な考えを持っているなんてな」
「何のことだよ」
「お前は言ったらしいな」

危険な考えなんて、俺のどこが危険だと言うつもりなんだ。
全く分からない。
分からないけれど、柿沼は間違いなく俺のどこかを危険だと思っている。
だから、俺は柿沼の言葉を待った。

「彼女の側に他の奴がいるから自分は、って」
「それは……」

それは確かに俺が言った言葉だった。

「いいか、人間は弱い生き物なんだ。怪我や病気なんか設備と医者がいれば治せるように見える。けれどそれだけじゃ駄目なんだよ」
「……」
「他に何が必要か分かるか?」
「なんとなく……」
「側にいてくれる存在だ」

柿沼の言葉にはどこか強い意志のようなものが感じられた。
俺はその言葉を聞いて、軽く頷いた。

「職業柄いろんな人を見てきた。いろんな別れも……見てきた。そんな中でどんな人にも共通していたのが、側にいてくれる人が多いほどに幸せそうな笑顔を浮かべていたってことだ」

ここまで言われれば、俺でもさすがに柿沼が言おうとしていることが理解できた。
それは俺が、今の俺がまさに実感していることだった。
それでも柿沼は俺のそんな思いを知ってか、知らずか話を続ける。

「ここまで言えば分かるだろう。そいつが一人いるから他の奴が側にいなくていいなんてことありはしないんだよ」 「……」
「お前だって同じだろう。それともお前は違うのか?」
「いいや、同じだ」

以前の俺は未来しか見えていなかったと思う。
けれど、未来と距離を置くようになった。
そして拓哉とも距離が離れてしまった。
今では久美さんとも笑って話すことすらできない。
気がつかなかった。
あの時の俺は未来が全てで、もし未来と一緒に居られるなら他なんてどうなってもいいようにさえ感じた。
だから、未来と一緒にいられなくなると分かったあの時、全てを失ったように感じて一人殻の中に閉じこもった。
前を向けばあんなにも俺を心配して、話を聞いてくれる人がいたのにそれを見ようともしなかった。
たとえ今、未来との関係が戻ったとしてもそれだけじゃ俺は耐えられないと思う。
未来がいて、でも他の誰もが俺の側から離れていく。そんなことを想像するだけで怖いと感じる。

「お前が彼女にしてきたのはそういうことだ」

何かを言い返したかった。
けれど、何も言い返せなかった。
俺にできたことは腕を痛いぐらい握り締めることと、唇を噛むことだけ。
柿沼はそんな俺に視線を一瞬向けて、

「だから、もう二度とそんなことを口にしないこと。それと――」

けれどまたすぐに顔を背けて、

「せめて週に一度ぐらいは彼女のお見舞いに来ることが約束できるか?」

顔の見えない柿沼からそんな言葉を投げかけられた。
最初は何を言われているのか理解できなくて、その言葉の意味が分かった時には柿沼はもう屋上から出て行こうとしている時だった。
だから俺は急いで後を追いかけて、

「いいのかよ!」

そう叫んでいた。
そんな俺に柿沼は一瞬足を止めたけれど、振り返ることもなく、

「言っただろ。人間は弱い生き物だってな」

そう言い残して今度こそ屋上から姿を消した。
俺は一人残された屋上で、誰にも見られることなくただ頭を下げていた。

 

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