《風と雪がそよぐ場所 - 君が生きる理由 第九章》

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「拓哉、すまなかった」
「……突然どうしたんだよ」
「すまなかった」

昼休みに拓哉を屋上へ呼び出し、俺は何かを言うよりも先に頭を下げた。
前置きも何もない俺の行動に、拓哉は声を詰まらせているようだった。
そのままの状態で待っていたけれど、拓哉から何かを言われる気配はなかった。

「俺は周りが見えてなかったんだ」

このままだと進まないと思って、俺はそう言いながら顔を上げた。
目の前に、拓哉の辛そうな表情があった。


「お前がどれだけ俺を、そして未来を心配していたのかを俺は見えていなかった」
「違う!俺は――」

拓哉が咄嗟に何かを言いかけた。
だけど俺は、首を振り、話し続けることで拓哉の言葉を遮った。

「俺は周りが見えていなかったんだ」

俺は、何を言いたかったのか分かっていた。
たぶん少し前までの俺なら分からなかったと思う。
それどころか拓哉の言いかけた言葉を、俺のほうから浴びせていたかもしれない。
『お前は俺を裏切ったんだ』と。
けれども、それは違う。違っていた。

「未来の考えてることが分からなくて、自分なんかにできることなんてないと思い込んでた」
「……」
「お前と未来のことだってそうだ。二人が付き合うことになったって聞いて一人取り残されたと思ってた」

自分は拒絶されたのに、拓哉は受け入れられた。
今まで側に居たのは自分なのに……。
そんな思いが俺の中には確かに存在していた。

「でもそうじゃなかった」
「…………違う」
「未来が辛いときに、苦しい時に俺は側に居てやれなかった。お前は未来の側に居てくれた」
「……違う」
「俺が取り残されたんじゃなくて、俺がお前達の側から離れて行ったんだ」
「違う!お前が悪いわけじゃない」

目の前で、必死に俺の言葉を否定する姿が、そのまま自責の念に繋がっているように思えた。
そして、それに今まで気がつけなかった自分に腹がたった。

「お前が未来とうまくいってなかったのを俺は知っていた。そして、それが原因で未来の元気がないことも俺は知ってた」
「……そうだな」
「それなのに、俺はその時を狙って未来に告白をしたんだぞ」
「でも、その告白を受けたのは未来自身だ」
「っ!でもっ!」
「拓哉。未来は、あいつはその場の勢いで付き合うことを決めたりしないはずだ。そして、そんなあいつに選ばれたお前が何を気にする必要がある」

そこで言葉を詰まらせる拓哉を見て、俺は苦笑した。

「どこにも気にする必要はないはずだ。だからこれ以上は何も言わないでくれよ」

不思議な気分だった。
いつも拓哉が立っていた場所に俺が立っている。
俺の立っている場所に拓哉がいる。
こうして冷静に周りを見ることがあの時の俺にできていたら……。
そんな考えが咄嗟に浮かんで、すぐにそれをかき消した。

「お前はいいのか……」

それは、病院から帰ってきて何度も自問した言葉だった。

「お前だって、本当は……」

それでも、思い出すのは昨日の柿沼の言葉。

『側にいてくれる存在だ』

あの言葉を聞いたとき、すぐに思い浮かんだのは未来や竹内さん。そして拓哉の存在だった。
こんな俺でも側に居てくれる人がいる。
そう思うだけでなぜか強くなれる。
だから、俺は笑いながら拓哉に言った。

「当たり前だろ。俺もお前達を応援してるからな」

その後、俺は拓哉と硬く握手をしてから屋上を後にした。

 

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